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最終更新: 2023年04月24日

シグナル伝達キナーゼの構造と機能を保証するHsp90/Cdc37分子シャペロンの研究


●研究者向け

主要な分子シャペロンであるHsp90とそのコシャペロンCdc37は、細胞内で多くのシグナル伝達キナーゼの構造と機能の獲得・維持に必須の機能を持つ。私たちはHsp90Cdc37がどのようにしてキナーゼを認識し、どのようにしてキナーゼのフォルディングを促進するのか、その分子メカニズムを明らかにする研究を行なっている。またHsp90およびCdc37の細胞内の機能制御機構について、リン酸化等の翻訳後修飾に着目して解析を進めている。Hsp90の特異的阻害剤であるゲルダナマイシンとその誘導体は、Hsp90に依存して機能する多くのシグナル伝達キナーゼの活性を網羅的に抑制できることから、従来の単一キナーゼを分子標的とする阻害剤による治療で大きな問題となる薬剤耐性癌細胞の出現を効果的に回避できる新たな抗癌剤の候補として重要視されている。また、Cdc37活性を阻害することでよりシグナル伝達キナーゼ群特異的な抗癌効果が期待できることから、Cdc37の特異的阻害法の開発を進めている。

 

★一般の方向け

私たちの体を形作る細胞の増殖や分裂は、シグナル伝達キナーゼに分類される一群の酵素タンパク質によってコントロールされています。シグナル伝達キナーゼの量や活性が異常に高くなることで細胞が際限なく分裂して増殖する病気である癌が生じます。シグナル伝達キナーゼが細胞内で活性をもつためには、タンパク質の構造と機能の維持に重要な働きをする一群の分子シャペロンが必要です。分子シャペロン自身もタンパク質です。私たちは、分子シャペロン(特にHsp90Cdc37)がどのようにしてシグナル伝達キナーゼの働きを助けるのかについて研究を進めています。分子シャペロンを何らかの方法でコントロールすることで、多くのシグナル伝達キナーゼが異常に働くことを防ぐことが期待できます。そのため分子シャペロンに結合してその活性を抑制できる化合物は効果的な抗癌剤の候補として期待されており、私たちはその開発もめざしています。


 

多彩な機能を持つタンパク質キナーゼCK2の生理的機能の研究

 

●研究者向け

CK2 (casein kinase 2)はもっとも初期に発見されたタンパク質キナーゼで、その後発見された多くのシグナル伝達キナーゼとは異なり、特別のシグナルを受けることも特定のセカンドメッセンジャーを必要とすることもなく、恒常的な活性を持っていると考えられる。一方で多くの癌細胞ではCK2の活性が亢進しておりCK2の過剰発現で細胞が癌化することから、CK2の活性は細胞内で何らかの制御を受けており、その活性が細胞の増殖や細胞死の制御にかかわることが考えられる。私たちはCK2が細胞内でどのようにして制御され、どのような基質をリン酸化し、どのような生理的機能を持つのかについて研究している。特に、CK2によるCdc37等の分子シャペロンのリン酸化に着目して解析を進めている。CK2によるリン酸化で基質タンパク質にどのような構造的・機能的な変化が生じるかを解明するとともに、新たな基質タンパク質の同定をめざしている。

 

★一般の方向け

タンパク質キナーゼはタンパク質にリン酸基を転移する一群の酵素です。これまでヒトのゲノムには500以上のタンパク質キナーゼが含まれていることが知られていますが、CK2はキナーゼの中で最も初期の50年以上前に発見された酵素です。多くのキナーゼが細胞内で必要な時のみ特定のシグナルを受けて活性化されるのに対して、CK2は単離された状態では常に活性を持つことが特徴です。一方で多くの癌細胞は高いCK2活性を持ちCK2を人為的にたくさん発現させると細胞が癌化する事から、CK2の活性は細胞内では何らかの制御を受けており、CK2が細胞の増殖をコントロールしていると考えられます。私たちはCK2がどのような分子メカニズムでコントロールされ、どのようなタンパク質に作用し、どのような機能を持っているのかを明らかにする研究を進めています。

 

ダウン症関連DYRKファミリーキナーゼの生理的機能の研究

 

●研究者向け

DYRKキナーゼ群はヒトではDYRK1A, DYRK1B, DYRK2, DYRK3, DYRK45つのメンバーからなり、そのキナーゼドメインの構造はMAPキナーゼやCdkと比較的類似している。しかし5つのメンバーはキナーゼドメインの両側にそれぞれ独自の配列を持っており、細胞内で個有の局在・機能を持つと考えられる。このうち、DYRK1Aはヒトクロモソーム21番にコードされており、クロモソーム21番のトリソミーによって生じるダウン症の責任領域に含まれる。マウスモデルの実験等からダウン症のさまざまな症状のうちの少なくとも一部はDYRK1Aの過剰発現が原因であると考えられる。私たちはDYRKファミリーキナーゼそれぞれの細胞内機能制御機構の解明や新しいリン酸化基質の同定、及び細胞内生理的機能の解明を目的とする研究を進めている。得られた成果がダウン症の発症の分子メカニズムの解明につながることを期待している。

 

★一般の方向け

最も頻度の多い先天性の疾患の一つであるダウン症候群は、ヒトのクロモソームのうちの21番染色体が通常12本であるところが何らかの原因で3本になることによって発症します。21番染色体に含まれる遺伝子の中でダウン症候群の原因となりうる候補の一つにDYRK1Aというタンパク質をコードするものがあります。DYRK1Aはタンパク質をリン酸化するキナーゼの一つで、その細胞内での機能を知ることはダウン症候群の発症のメカニズムと治療法の開発のために重要な課題です。ヒトではDYRK1Aを含めてよく似た構造を持つ5つのメンバーがDYRKファミリーを作っており、私たちはこのDYRKファミリーのタンパク質が細胞内でどのような機能を持っているのかについて研究を進めています。特に各DYRKファミリーに細胞内で結合するタンパク質を発見することで、DYRKファミリーの機能がどのように制御され、どのような役割を果たしているのかを明らかにしようとしています。



WD40リピートタンパク質DCAF7/WDR68の構造と機能の研究

●研究者向け

WD40リピートタンパク質は特徴的な配列を持つ約40アミノ酸からなるWDリピートを有する一群のタンパク質である。さまざまなシグナル伝達分子がWD40リピートを持ち、複数のターゲットタンパク質と相互作用する事でシグナル伝達の効率や特異性を決定していると考えられている。私たちはDYRK1Aと特異的に結合する分子としてWD40リピートタンパク質の一つDCAF7/WDR68を同定し、DCAF7/WDR68の構造と機能を明らかにする研究を進めている。リン酸化プロテオーム解析により細胞内分子シャペロンの一つTRiC/CCTが結合することがDCAF7/WDR68の構造と機能に必須であることが判った。今後、DCAF7/WDR68がどのようなシグナル伝達系でどのような分子と相互作用しながら生理作用を発揮するかを解明する。DCAF7/WDR68は進化上非常に良く保存されている事が特筆されるが(ヒトとトリで全く同一の342アミノ酸、魚類でもヒトと98%のアミノ酸が同一)、なぜこれほどアミノ酸配列の保存性が高いのかについても、構造と機能の面から明らかにしていきたい。


★一般の方向け

私たちはDYRK1Aと細胞内で結合するタンパク質としてDCAF7/WDR68を同定しました。ゼブラフィッシュを用いた実験でDCAF7/WDR68が胎児の発生過程で顔面形成に重要であることも判っています。そのため、DCAF7/WDR68DYRK1Aの過剰発現によるダウン症の症状の発生に関わっている可能性があります。DCAF7/WDR68は細胞内で複数のタンパク質と同時に結合してそれらの間でのシグナル伝達の強度や特異性を高めているのではないかと考えており、私たちは細胞内でDCAF7/WDR68がどのような分子と相互作用してどのような生理的機能を持つかを解明しようとしています。またDCAF7/WDR68はヒトでもトリでも全く同じ構造をしている珍しいタンパク質の一つで、なぜ進化の過程でこれほど変化しないのかについても、構造と機能の面から興味をもって研究を進めています。


MAPキナーゼ類縁タンパク質キナーゼMOKの構造と機能の研究 

●研究者向け

MOKは、私たちが同定・クローニングしたタンパク質キナーゼで、MRKおよびMAK(ICK)とともに同じファミリーに属するSer/Thrキナーゼである。そのキナーゼドメインのアミノ酸配列はMAPキナーゼと類似しており、何らかのシグナルを受けて上流のキナーゼによるリン酸化によって活性化されると考えられる。クラミドモナスの実験等からMOKciliaの長さを制御するのに重要な働きをしていることが最近明らかにされつつある。私たちはMOKの活性化機構および基質の同定と細胞内生理的機能を明らかにするための研究を進めている。結合タンパク質の同定を進めるとともに、さまざまな生物種を用いて生体内でのMOKの役割を解明する。

★一般の方向け

MOKは私たちが以前新たに発見・クローニングした分子で、他のタンパク質にリン酸基を転移する活性をもつタンパク質キナーゼと呼ばれる酵素の一種です。モデル生物を用いた最近の研究から、MOKは細胞から生えている繊毛という細長い繊維状の突起の長さをコントロールする働きを持つことが判ってきています。繊毛は細胞が運動したり、外の情報を感知したりするのに重要な働きをしています。繊毛がうまく形成されなかったり働かなくなることで生じる多くの病気が知られており、これらは総称してシリオパチー”と呼ばれています。私たちはMOKの活性がどのようにしてコントロールされ、どのような生理的機能を持っているかを明らかにする研究を進めています。MOKの機能を解明することによって、繊毛形成不全による病気の分子メカニズムが判ると期待されます。


微小管結合タンパク質タウと分子シャペロンの相互作用の研究


●研究者向け

タウタンパク質(以下tau)は微小管を構成するチューブリンに結合してその構造を安定化するタンパク質である。アルツハイマー病をはじめとするいくつかの神経変性疾患においてはtauの過剰なリン酸化が観察され、過剰リン酸化に起因するtauの構造変化と繊維形成が神経変性疾患と密接に関連すると考えられる。従って、キナーゼによる過剰リン酸化からtauの構造変化及び神経細胞の機能破綻にいたるプロセスを詳しく知ることは、アルツハイマー病等の神経変性疾患の原因の解明と治療法の開発のための重要な課題である。TauHsp90, Cdc37, FKBP52などの分子シャペロンと相互作用するが、その相互作用がtauのリン酸化や構造変化とどのような関連があるかの詳細は明らかでない。私たちはtauのリン酸化・繊維形成及び細胞毒性発揮のプロセスにおいて、分子シャペロンとの相互作用がどのような生理的意義を持ちどのように制御されているかについて研究を進めている。

 

★一般の方向け

アルツハイマー病などの認知症の方の脳には繊維状のタンパク質の異常な塊が観察されることがあります。そのような塊の成分の一つとしてタウと呼ばれるタンパク質があり、通常は細胞の形や機能のために正常な働きをしているタウが何らかのきっかけで不自然な構造を持つようになって蓄積することがさまざまな認知症の原因の一つと考えられています。したがって、タウタンパク質の正常な構造がどのようにして保たれているのか、またどのような原因でどのようなプロセスで正常な構造が失われていくのかを知ることは、アルツハイマー病をはじめとするさまざまな認知症の原因の解明と治療法の開発に役に立ちます。私たちは、細胞の中で多くのタンパク質の構造の保持に大きな役割を果たしている分子シャペロンと呼ばれる一群のタンパク質が、タウタンパク質の正常な構造・機能の維持や、その破綻によって細胞毒性を発揮するプロセスとどのような関係があるのかを明らかにしていく研究を進めています。

 

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